大阪高等裁判所 昭和24年(ネ)106号 判決
被控訴人は控訴人に対し金十万円及びこれに対する昭和二十三年九月七日から完済に至るまで年六分の割合の損害金を支拂え。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
この判決は控訴人において金三万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として被控訴人は昭和二十三年六月二十四日附で金額十万円、振出地支拂地共に奈良縣宇陀郡榛原町支拂人株式会社南都銀行榛原支店持参人拂の小切手一通を振出し、控訴人は訴外岸田頼三の裏書(白地式)により所持人となつたので、昭和二十三年七月九日その支拂人たる株式会社南都銀行榛原支店に支拂のため小切手を呈示して、これが支拂を求めたところ拒絶せられたので支拂人をして右小切手にその旨及び年月日を記載せしめ且つ署名捺印せしめた。よつて右小切手金十万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和二十三年九月七日から完済に至るまで年六分の割合による損害利息の支拂を求めるため本訴に及んだものであると述べ、なお(一)本件小切手は控訴人において昭和二十三年六月二十四日株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所にその取立を依頼し、同日同銀より株式会社南都銀行本店(奈良市所在)に郵送せられ更に同銀行より支拂銀行である同銀行榛原支店に郵便を以つて送付呈示せられたところ同郵便物は本件小切手の呈示期間内である昭和二十三年六月三十日十二時三十分前に奈良縣宇陀郡榛原郵便局に到達しておるのである。よつて遅くとも支拂銀行えは翌日である七月一日には配達されなければならない筈であつたが、進駐軍の命により榛原郵便局より大阪檢閲(大阪中央局)廻送せられた爲め、その檢閲終了後再び榛原郵便局え送付せられ同局え到達は同年七月八日で支持銀行え配達せられたのは翌日の九日である。右のような事情で法定の呈示期間を徒過したのは小切手法第四十七條に所謂避くべからざる障碍に該当するものであつて、その呈示期間は伸長せられなければならぬものである。また、取立受託銀行である株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所が支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店え小切手を直接郵送せずその本店で奈良市に存在する株式会社南都銀行を経由したのは右取立受託銀行と支拂銀行との間に直接取引契約がなかつたからであつて、これは商慣習に從つたものである。(二)次に本件小切手は一般線引小切手であるから支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店は銀行か又はその取引先に対してのみ支拂ができるのであるし、また、銀行はその取引先からの依頼によるにあらざれば、その小切手の取立ができないのであるから本件小切手の受取人である控訴人のように京都市に居住して居る者は取引銀行といつても京都市内にしかないのでその取引銀行である株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所に取立を委託したのである。そうして小切手の受託銀行が隔地の支拂銀行に対し取立をなす場合は小切手を郵送して取立をなすのが慣習である。はたしてそうだとすれば郵送に要する日数が普通に到達しても法定期間を超過するような場合、小切手法第四十七條によつて期間伸長を認められなければならない筈である。そうでないと、郵送日数、十日以上を要する隔地者間の線引小切手の取立は常に小切手たる効力を失うことになる、殊に本件小切手は普通ならば法定の呈示期間内に到達すべかりしものを異常に遅延して支拂銀行に到達したのであるから期間伸長を認められない筈がないと附陳した。<立証省略>
被控訴代理人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求め、その答弁として、控訴人主張の本訴請求の原因たる事実は認めるが法定の期間内に呈示できなかつたのは不可抗力に基づくものであるとの点は否認する、と述べた。<立証省略>
三、理 由
被控訴人は控訴人の主張事実中本件小切手が法定の期間内に呈示できなかつたことが、小切手法第四十七條に所謂避くべからざる障碍のため妨げられたるものであるとの点を除いて、総て認めておるところであるから、はたして控訴人の主張するように本件小切手が法定の呈示期間内に呈示できなかつたのは小切手法第四十七條に所謂避くべからざる障碍のため妨げられたるものなりや否やにつき審究するに成立に爭のない甲第一号証第三者の作成にかゝるので眞正に成立したものと認められる甲第二号証、原審証人菅原久義当審証人村井喜子男の各供述及び奈良郵便局並に奈良縣宇陀郡榛原郵便局よりの各調査嘱託に対する回答を総合すると、控訴人は昭和二十三年六月二十四日本件小切手を取得するや同日小切手取立のため取引銀行である株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所え取立を委託したのである。そこで取立の委託を受けた同銀行では直接支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店え取立の爲め右小切手を呈示の爲め送付するのが順序であるが、受託銀行である株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所と支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店との間に直接取引契約がないので右受託銀行は翌二十五日右支拂銀行の本店である奈良市に所在する株式会社南都銀行本店え右小切手取立のため郵送したところ、同郵便物は同月二十八日右銀行え到達し同銀行では更に翌二十九日支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店宛郵送したところ同郵便物は翌三十日午前九時三十分奈良縣宇陀郡榛原郵便局え到達したので普通なれば同日か遅くとも翌七月一日には支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店へ配達せられるのであるが、進駐軍の命により檢閲のため大阪檢閲(大阪中央局)宛同日廻送せられ檢閲が終了してから更に榛原郵便局え再送せられ同郵便物が榛原郵便局に到達して支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店え配達されたのは同月九日であることが容易に認められる。なお、本件小切手は一般線引小切手であるからかゝる小切手の所持人である控訴人は、その取立をなさんとすれば支拂銀行である株式会社南都銀行榛原支店と取引がある場合は別問題であるが、しからざる場合は取引銀行に委託して取立を爲すより他に方法のないことは小切手法第三十八條に照らして明らかなるところである。よつて控訴人が株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所え本件小切手を取立の爲め委託したのは前記法條に基くものであつて正当である。また、受託銀行たる株式会社滋賀銀行京都支店泉涌寺出張所が直接支拂銀行たる株式会社南都銀行榛原支店え取立の爲め本件小切手を郵送せず右支拂銀行の本店である株式会社南都銀行本店宛本件小切手を取立の爲め郵送したのは支拂銀行と受託銀行との間に直接取引契約がないため取引契約の存在する支拂銀行の本店を経由せしむる為め同本店え本件小切手を郵送したこと並に本件小切手を呈示するため小切手を郵送したのは隔地の銀行に対する取立は小切手を郵送して行われること等が慣習として常に行われておることは吾人の経驗に照らして首肯できるし、また本件小切手取引の爲め小切手を郵送しても普通なれば受託銀行から株式会社南都銀行本店まで約四日位同本店から支拂銀行まで約二、三日位で各到達するのであるから本件小切手の法定呈示期間の最終日である七月四日までには充分可能であつたのであるが、占領軍治下にあるわが国としては進駐軍の命によつて本件小切手のように檢閲の爲め大阪檢閲(大阪中央局)宛廻送せられ、これが檢閲終了後再び本件小切手を榛原郵便局え郵送せられた爲め、法定の呈示期間を徒過したというような事態は小切手法第四十七條に所謂避くべからざる障碍に該当する事態と断定せなければならない。なんとなれば右のような事態はなに人と雖も防止することができない占領治下のできごとであるからである。被控訴人は本件小切手を法定の呈示期間内に呈示できなかつたのは不可抗力に基くものではないと抗弁するけれども、この点に関するなん等の立証もないし他に前記認定を覆すような立証もないから爾余の控訴人主張事実を判断するまでもなく、被控訴人は控訴人に本件小切手金十万円及び本訴状送達の翌日である昭和二十三年九月七日から完済に至るまで年六分の割合の損害利息金を支拂う義務のあることは明白である。よつて本件控訴は理由があるから原判決を取消し民事訴訟法第三百八十六條、第九十五條、第八十九條、第百九十六條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 神戸敬太郎 松本左右一 福本一)